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 RESOLUTION ll 第4章(5)**********************************************



<……ヤマトの皆さん>
「イリヤ女王!」

<古代艦長。…我が首都に対する防空援護に…感謝します>
金のティアラを傾げて、女王は目を伏せた。
「SUSが撤退した理由は… 一体?」
だが、その古代の問い掛けにイリヤはかぶりを振る。
<——それはわたくしどもにも解りません。ただ、依然上空には次元要塞が接近しています。…彼らはただ弾薬の補給のために戻ったのかもしれません>

イリヤは悲痛な面持ちだった。
纏っている金色のドレスも重厚なティアラも、最初に彼女を見たときほど威厳に満ちてはいなかった。
<……さあ、この間にあなた方はこの星域から退去してください。…おそらくこの後、SUSは次元要塞を以て本格攻撃に入ることでしょう。……もう、十分です>


さあ、今のうちに。
…逃げてください……!


あくまでそう言い募るイリヤに、通信席の次郎は思わず目を伏せた。
大村が、ちら、とこちらを伺うのが分かる。
小林と上条が、身を乗り出してキャノピーの向こうに硝煙を立ち上らせる首都を見つめた—— 
敵艦隊が再び攻撃しに来るのなら、俺たちがここから動くわけには行かない…!

一瞬の沈黙ののち、古代は昂然と顔を上げた。
「……女王。ヤマトはこれより、アマール宇宙軍の援護に向います」
<……!!>
えっ、と小林が艦長席を振り仰ぐ。
「どうか、傷ついたあなたの街の人々の手当てを。アマール本星の防御のために、我々の有人護衛艦隊3隻を残して行きます。再びSUSの艦隊が戻って来ても、有人艦隊が首都の防空を担います」
「艦長……!」
木下と桜井が顔を見合わせる。
<いいえ、古代艦長>
イリヤが尚も咎めるような目つきでかぶりを振ったが、古代は態度を変えなかった。
穏やかな声音で、しかしきっぱりと…続ける。
「我々も、無益な戦いは望んでいません。ヤマトがパスカル将軍の援護に向うのも、あくまでも“これ以上の犠牲を出さないため”です」
<…古代艦長……>
イリヤの褐色の頬に、光るものが零れた——



「全艦、浮上せよ!これよりヤマトは単艦任務を離れ、アマール宇宙軍の援護に向う!
目標、SUS次元要塞!」
「うっしゃあ!」
「了解…!!」

古代の号令を受け、矢継ぎ早に護衛艦各艦へ通達が行なわれる。  
有人艦<比叡><朱雀>および<加賀>はこの場に残り、首都防空のため現状維持!
バリアミサイルによる専守防衛を徹底せよ。
「全無人機動艦、<アルゴノーツA.I.>コントロールをヤマトCICヘコネクトしろ」
「了解!」
機関長の徳川が、自席にセットされている専用制御卓をポップアップする。特殊な形状のコントロールパネルが、15隻の無人機動艦の自動制御システムとの接続を示すランプを次々と点灯させた。
「機関室!天馬翔、走!波動エンジンはお前らに任せたぞ!」
徳川の声に、頼もしい双子の二重奏が返って来る。
「了解!」「ラージャ!」

「上空、敵影なし!」
「波動エンジン良好、出力60%!」
小林が、来たるべき号令に備え、操縦桿をぐっと握りしめた——

「ヤマト…発進!」




*            *            *




「…なんだと…!? ……そうか」

島大介がテレサを乗せた車椅子を押して作戦司令本部のオートドアをくぐったのと、真田志郎が肩越しにそう言ったのとが同時だった。
「…真田さん、状況に変化が?」
ヘッドセットの通信機を耳にしたまま、真田が振り向いた。
「島か。…次郎くんから続報だ」

ヤマトが、アマール宇宙軍の援護に向かった。
相手はくだんの連合宇宙軍の総大将、SUSの次元要塞だ……

言いながら、真田は目を落し。車椅子の上で心配そうな表情を見せているテレサに向かってお座なりに微笑んだ。
「テレサ。起こしてしまって、申し訳ありません…」


数分前、次郎からの連絡で、ヤマトが防衛会議の諮問結果を待たずにアマールの首都防空に踏み切った……と聞かされ、大介はテレサを起こしに仮眠室へ走ったのだ。 
だがテレサは、酷く消耗していた。
こんこんと眠り続ける彼女を無理矢理起こすのは躊躇われたが、逼迫した戦局を考えると致し方なかった。古代は「専守防衛」をイリヤに約束しているが、防戦一方の状態をいつまで続けられるのか——。
もういつ本格的戦闘状態に突入するかも分からない状況なのだ。
だが、「大丈夫です」と健気に笑うテレサが決して大丈夫でなさそうなことは、一目見て明らかだった。

時刻はすでに26時を回っている……  ブースの下部に並ぶモニタ群を操るスタッフも、交代で休みを取り長期戦に備え始めた。
古代美雪と娘のみゆきは、真田がブース内の隅に持って来させた折りたたみ式のベッドで、身を寄せ合って眠っている。

耳に当てていたヘッドセットを置くと、真田は大介に向き直った。
「古代のやつ。…ヤマト単艦で敵の要塞へ向かったらしい」
「単艦で…!?」
「有人のスーパーアンドロメダが3隻随行していただろう、彼らをアマールの防空のために残して行ったようだ」

あの馬鹿。
守が一緒だって言うのに…!!

大介の顔に、そう浮かんだのを見て真田も苦笑する。
「いや、あいつにしちゃなかなか慎重な判断だ。単独とは言っても、ヤマトは無人機動艦15隻を連れている」
「……なるほど」

さすがのあいつも、完全に単独での突撃は回避した、というワケか。

こんな局面だというのに。
島の、真田の頬に、笑みが浮かぶ……

「徳川が一緒で良かったですよ」
無人機動艦隊のバトルコントロールに関しては、大介に負けず劣らず、と言ってもいいほどの徳川の腕だ。奴がかならず、ヤマトを護るだろう。
「……昔とは違う、ってあいつは言いたいんだろうがな…」
だが真田はそこでまた、苦笑した。
「いずれにせよ、防衛会議の決定無視、だ…… またしてもやっこさん、ミソがついたな」
「……諮問会議の決定は」
「ああ。イリヤ女王の要請通り、手出しをするな、だ」
「……あいつらしいですよ」
大介はそう言いながら頷く…… 


それでこそ古代進<おまえ>だよ。


だが、ヤマトが向かった、というアマール上空で何が起きているのか。
眠る娘と、疲弊したテレサに、どこまでその戦いをサポートしろと言えるのだろうか。
懸念に思わず伏せた視線が、微笑む妻のそれとぶつかる。

「……これからヤマトが向う宙域の策敵を。…そうですね?」
黙って真田と大介の会話を聞いていたテレサだったが、彼女は今後のヤマトの戦いは自分とみゆきの能力に左右されると言っても過言ではない…ということに気付いたのだった。

大丈夫。
みゆきは今眠っていますが、テレパスはそのままダイレクトに守君と次郎さんのいる座標に届いています。
「——ヤマトの周囲200宇宙キロ程度なら、現状でもサーチとマーキングが可能です。……次元要塞、ということは、かなり大きな物ですものね……はっきり反応があるはずですわ」
車椅子から大介の手を借りて、操作卓の座席に腰掛けながら、テレサは言った。
「……無理するな。辛かったらいつでも中断していいんだよ」
「ええ。ありがとう…大丈夫よ…、島さん」


本当は、雪の居所ももっとはっきり知りたい所だった。
だが、みゆきには「雪が守の母親だ」ということしか分からない。
その人物を2万光年彼方の宇宙で見つけるには、あまりにも情報不足だった。
(…雪さんも、どうか無事でいて)
雪の無事をも祈りながら、テレサは解析用ドローパッドに指を走らせる。ヤマトの突き進む宇宙空間に存在する無数の敵戦艦が、科学局の全方位マルチスクリーンに膨大な光点となってゆっくりと投影されて行った……


「……凄い…数だわ…!」
見上げていた真田も大介も、愕然とする。
ヤマトを迎え撃たんとするSUS、大ウルップ連合軍の艦船は、裕に千を越えると思われたからだ——。




*           *           *




一方、アマール本星から飛び立ったヤマトが、15隻の戦艦を引き連れてこちらへ向かっていると報告を受けたパスカル将軍は、困惑していた。

「ヤマトが…。地球人たちは、退去しろと言う陛下のお気持ちを無駄にするつもりか!?」
「しかし、彼らは首都の防空のため尽力してくれました…!」
副官の言葉に、割り切れぬ思いを抱く。
「……ヤマト艦長からは、我々の援護のため馳せ参じると、連絡が来ております!」


あくまでも、防戦のためだと…?
馬鹿な。
単独とはいえ、ヤマトそのものは驚くべき威力の兵器を搭載している。 
引き連れている戦艦も、専守防衛が身上とは思えぬほどの兵装ではないか。それを、攻撃のためには使わない、というのか。


パスカルは副官のすがるような表情を無視すると、通信兵に向って怒鳴った。
「…フリーデ、ベルデルからはまだ返答はないのか!?」
「ありませんっ」

優美なその船の艦橋から見渡せる宇宙空間……
眼前には異次元空間を自在に操る巨大な要塞が聳えている。
もうかれこれ数時間、膠着状態が続いていた。SUS次元要塞からは、総司令官のバルスマン、およびメッツラー提督から短い最後通牒が入ったきりである。

彼らとはろくに意志の疎通が出来ない……

それは今に始まったことではなかった。
今まで何年間も、そう…彼らがこの惑星連合を牛耳るようになって以来ずっと、SUSの決定は不動のものとしてただ短い通信が送られてくるだけに留まった。
それに不服を唱えれば、有無を言わせぬ武力制裁が待っている。
かつて、あの眼前に聳える要塞に、大ウルップ連合に名を連ねる…しかし軍隊を持たない弱小国家が幾度となく蹂躙され、見せしめのために国土の半分を焼かれたことは、忘れようもない事実である——

この数時間以内に、要塞からはSUSの駆逐艦が幾たびか発進し、母なるアマールへと攻撃を加えていた。
パスカルたちはそれを阻止する術を持たない… 
ここで彼らに背を向けて母星の防御に向えば、要塞は背後からアマール全宙域の制圧に出ると思われたからだ。


要塞の周囲に、それを守るかのように展開している友軍・フリーデとベルデルの将たちも、何も言っては来なかった……連合最強国に怯える彼らには、そうするよりほか道が無いのだ。


「…エトスへの連絡はつかないのか?!」
「エトスとは交信不能です。…しばらく前からすべての通信回線そのものが遮断されています…… エトスの本星で、何かアクシデントが起きたのかもしれません!」
「……糞っ」
あの星のゴルイという男には、僅かでも人の心があると信じていたのだが。行方が分からぬと言うなら、致し方あるまい…


パスカルは、その優美な形のヘルメット越しにパネルスクリーンを睨みつけた。

我がアマールも、SUSに不服を唱えた他の国家のように蹂躙される運命か。
…そして今、我々の背後からヤマトが来る。
次元要塞は、おそらくそれを以て総攻撃に移るだろう……


(地球人め… 戦わぬなどと。——それは驕りだ)

手を汚さずして得られる平和などない。
血を流さねば、護れないものがあるのだ……!



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