RESOLUTION ll 第4章(4)**********************************************
工作班実験室の、ケースの中にくったりと横たわっていたはずの…例の宇宙生命体。
それが、砲撃が始まったと同時ににわかに光り出し、5体ばかりいると思われた個体すべてが、まるで飛び立つ準備をする鳥のように、翼をはためかせ始めていた。
大慌てでその件を第一艦橋に知らせようとして、守とアナライザーは驚くべきことに彼らの「声」を聴いた——
(……おうち… 帰りたい…… 帰りたいよ……)
「な…何だ、今の!?」
「……オソロシイ……」
守の隣に並んで透過台の上の光る物体を見ていたアナライザーが、胴回りのランプを一列だけ光らせて…呟いた。
「…私ニ分析デキナイ宇宙生命体ノ音声反応ガ存在スルトハ。——ナントイウコトダ…!!」
死んでいるとばかり思っていたが、あのクリオネたちは実は生きていたのだ。未知の条件下で解析にかけられ、それに怯えて仮死状態を装っていたのだろうか。
「…シカモコレ…子ドモノ…声デス。コノ個体ハ、幼生デスヨ…!!」
「?」
この紫色の宇宙生命体は、子どもなの…?!
(あっ……… )
そこで守の脳裏に浮かんだのは、このところ毎晩のように見る、例の薄気味の悪い夢だった。
<お願い。お家に帰して。お家に帰りたいよ……!>
そう言いながら、同じ顔の無数の子どもたちの間に転がっている自分。
まさに目の前で、紫色に光るクリオネたちが「声」とも思えない「声」で自分にそう呼び掛けている。
(あの夢は、もしかしたらこの生命体たちが、僕に見せていた夢だったのかもしれない……!!)
我知らず息を吸って、吸って、吸って……吸っていた。
このままだと、過呼吸になる!
分かってはいたが、目眩がするまで喉を鳴らした。
何もかもが、すっかり繋がって全体が見えたのだ。
「アナライザー!お父さんの船を前に襲った、っていう戦艦の中にも、これと同じものが乗ってたんだよね?そう言ってたよね?!」
「ハ、ハイ」
「今… 上に来てる、敵の戦艦は、その時にお父さんたちがやっつけた戦艦と同じ形をしてるんだよね?!」
「……ソウデス」
マサカ。
——ト、イウコトハ……!
「…ワカリマシタ。“ソノ”通リダト思イマス!」
守が説明せずとも、アナライザーも何かを直感したようだ。
「この子たちを、SUSの船に帰してあげなくちゃ…!!」
「ハイ…!」
上空にみなぎる強い敵意。その源が、この宇宙生命体たちの仲間だったとしたら。
けど、アフリカの野生動物じゃあるまいし……
守の脳裏に、妹の美雪が可愛がっているライオンたちが浮かんだ。
仲間を返してもらったら、今アマールの首都を攻撃している戦艦が撤退するとでも言うんだろうか、…そんな馬鹿なこと…。
(お父さんに、知らせようか)
だが、作戦行動中の第一艦橋に自分が行くことは出来ない。
とっさに、緊急通信で地球の島大介に判断を仰ごうかとも考える……
<誰にも頼れない時は、自分を信じろ。自分は大丈夫、そう思うんだ>
だが、そう言ってくれた大介の顔を思い出す。
真っ赤なランプでいっぱいになっているベルトウェイを、アナライザーのキャタピラと一緒に駆け抜けた。
僕の直感を、きっとアナライザーが証明してくれる。
やってみるんだ……!
「コッチデス!」
アナライザーについて、転がるように後方デッキへと続くハッチをくぐる。
ハッチを出た瞬間、頭上で耳をつんざく大音響が炸裂した……
煙突状の後方上部ミサイル発射管が、16連発でバリアミサイルを発射したのだ。
守は両手でケースを庇いながら、音に突き転ばされるような格好で甲板に踞る。
その状態で目だけ上げて、上空を凝視した。ヤマトの打ち上げた「バリアミサイル」が、光る円盤状のシールドを16、都の上空を覆い尽くすように展開する。
——と同時に、中空から飛来した多数の敵ミサイルがそのシールドに次々と突き刺さり、炸裂した…
ッドドドオォォォンッ………!!
「わ…あぁぁッ——」
一瞬、耳が聞こえなくなる。
閃光の眩さに目が見えなくなる。
何キロも向こうの空の上なのに、衝撃波がヤマトの上にまで飛んで来て守の身体をガタガタと揺さぶった。
胸に抱えているケースの中の生命体たちが、一段と光を増す——……
「大丈夫デスッ、ばりあハ万全デス!ミサイルハココマデ届キマセンッ」
アナライザーの声に大きく頷きながら、クリオネたちに呼び掛けた。
「…今っ、自由にしてあげるからっ」
「早ク早ク!!舌噛マナイヨウニ気ヲツケテ!」
めちゃくちゃに傾ぐ甲板上で、転がりそうになる守を後ろからアナライザーの力強い腕が、ガッシリと支えた。
ヤマトそのものが、バリアミサイルへの着弾衝撃波を受けて大揺れに揺れる。
“港”の海面が、不規則な三角波でいっぱいだ。
揺さぶられる甲板で、クリオネたちの入っているケースを開けようと守も奮闘した、
留め金が上手く外れない。
身体を支えてくれているアナライザーまでが、電子音で悲鳴を上げた。
そうしている間にも、頭上でまたもや煙突ミサイルが火を吹く。
食いしばっている奥歯が、壊れるんじゃないか…と思った……その時。
「開いた!!」
——と、次の瞬間。
叩きつけるような反動と共に、アメジスト色の閃光が4つ、守の手元のケースから飛び立った………
「…!!」
我に返ってケースの蓋の中をのぞき込む。
…と、一体だけがまだそこに残っているのが見えた。
(…どうしたんだ.…怖いの?)
しゃがみ込んでケースを甲板に置き、蓋を押えるようにして大きく開く。
「ほら、行くんだよ…!」
帰りたかったんだろ?!
みんなのいる所へ…?
「怖くないよ、ヤマトは君たちを攻撃しない。僕のお父さんは約束したんだ、専守防衛だって。だから、今のうちにみんなの所へ帰りな…!!」
さあ!
この生命体に言葉が通じる、などとは思っていなかった。
だが、そう言って聞かせた守の見守る中、まるで納得した…とでも言うように、最後のクリオネが翼を開いてケースの蓋の中から舞い上がる。
(……アリガトウ)
えっ……と思う間もなく。
アメジスト色の光が、尻餅をついた守とアナライザーの周囲をさあっと一周りし。閃光となって上空へと消えた。
「……聞いた?」
「ハイ…!!」
呆気にとられて閃光の消えた上空を見上げながら。…守とアナライザーは互いに呟いた……
ありがとう、って言ってた!
……確カニ聞キマシタヨ!!
アナライザーが、伸ばしていたアンテナを上下させ、腑に落ちない…といった音色で続けた。
「……上空ノ敵意ガ…… 消エマシタ…!」
* * *
「引き返して行くぞ!」
バリアミサイルの照準機を覗き込んでいた郷田が、
敵戦艦の位置を逐一監視報告していた折原が——、
突然の撤退に驚愕の声を上げた——
「なんだ、どうしたんだ…!?」
「敵戦艦、攻撃を中止し…… 撤退して行きます!!」
「古代艦長、追撃しますか?!」
大村がさっと艦長席を仰ぐ。
敵艦隊の撤退の理由は不明だ。
「どうして…!?」
「何が起きたんだ…?!」
上条、桜井も、キツネにつままれたような面持ちで上空を見上げている。
「…折原!レーダーで敵艦隊の行く先を追え。撤退ではないのかもしれん……第2波攻撃が来るかもしれんぞ」
古代がそう言った瞬間、頭上のパネルに通信が入る……
——イリヤだった。
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