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 RESOLUTION ll 第4章(3)**********************************************




途端に通路の天井が点滅する赤ランプでいっぱいになる。
エマージェンシーコールが鳴り響いた——


<総員第一級戦闘配置完了!>
<……首都上空に艦隊反応!!>
<ワープ反応多数!>
<…SUSの艦隊です!!>
中西の声と、折原の声が交互に通路のスピーカーから降って来る。
「ツイニ始マリマシタネ…!」
守をその腕で庇うようにして、アナライザーはそのまま工作室内部にある小さな部屋へ向かう。
サア、早ク身体ヲ安全ニ固定シナクテハ!


「あれ?」
だが、ロボットについてそのドアをくぐろうとした守は、実験室の窓から漏れる明かりに目を瞬いた。
「ねえアナライザー?あっちの部屋に、まだ誰かいるの?」
「ハイ?ソンナハズハアリマセンガ」
今、全員ガ戦闘配備ニ着イタハズデスカラ。工作班モ、上カ、工場ダト思イマスヨ?
「…でも、実験室明るいよ?」

ハテ。
頭部に光るランプの点滅が、そう言ったように見えた。
アナライザーはキャタピラをバックさせ、工作室のドアについている小さな覗き窓を「覗きに」行った……

「…ウワ…ワワワワ……!!!」




*            *             *




地球と環境の似た、平和そのものの青空を黒く塗りつぶすように——その艦隊は現れた。
赤い銃眼、巨大な盾をかざしたような船体。
<沙羅>を襲撃したのと同型の、SUSの戦艦である。沖合に停泊しているヤマトからも、その様子が確認できた……

「…艦隊、ワープアウト!20隻を確認!!」
「やっぱりあいつらだ。…<沙羅>を襲った奴らだぜ!」
畜生、と小さく叫びながら小林が操縦席に走った。
「上条、砲撃準備だ!!」
「ああ?! 艦長に動くなって言われてんだろ!!てめーはすぐ頭に血が上るんだから!」
「いや、小林の言う通りだ」
大村が戦闘指揮席の上条を遮って小林に同意した。準備だけはしといて損はない。
「郷田、バリアミサイル発射用意!」
「よし、エンジンもスタンバっておこう」
徳川が軽く頷き、機関部へGOサインを出す。
あくまでも専守防衛。艦長の指示はまだ出ていないが、これが乗組員みんなの意志だ。
中西がレーダーを睨みつけながら叫んだ。
「……敵艦隊、首都上空に接近…!」




その様子は、古代のいる艦長室からも一望出来た。
足元からメインエンジンの拍動が昇ってくるのを感じる。大村が、おそらく生じるであろう緊急事態に備えてクルーたちを動かしているのだろう。

蒼穹を埋め尽くす、赤黒い重力の群れ。 
SUSの戦艦は、大気圏内で見ると一段と歪でおどろおどろしい。眼下、数キロ海の向こうのアマールの首都は、シン…と静まり返っている。
突如、赤い戦艦下部から一条の閃光が迸り出た。


<…砲撃、開始したようです!都市へのミサイル攻撃を確認!>
「くそ……」
第一艦橋から上がって来る中西の声に、古代は我知らず呻いていた。

(…雪。……俺は……どうしたらいい?)
行方の分からぬ愛する妻… 同じ護衛艦艦長として共闘する雪に、心の中で問い掛ける。



地球のために、アマールは窮地に立たされている。

——君も…戦艦<サラトガ>の艦長だよな。

その肩に、地球の命運がかかっているとしたら。

艦長として、君なら…どうする……?



アマールの宇宙軍は、大気圏外に飛来した要塞に相対することで精一杯なのか、都市の援護に戻ってくる気配がなかった。
連合に対し共同戦線を張るために供出できるほどの軍備を、我が国は持ち合わせていない。そう言ったパスカル将軍の苦渋の貌を古代は思い出す。

このままでは、首都は… 
成す術も無くSUSに蹂躙されて行くだけだ。


不連続な火柱に、海岸線が焼かれて行く—— 
轟音と共に、沿岸に立ち並ぶ家屋が炎を上げ倒壊して行く様子が、はっきりと見えた。海岸通りを彩っていた美しい花の咲く街路樹が、炎に舐められて次々と宙に燃え上がる。
座席のアームレストを握りしめる古代の手の甲が震え、…血管が浮かび上がった。 


第一艦橋では真帆の操作するモニタに、首都の様子が拡大投影されていた。
「ひでえ……、完全に民間人狙いだ…!」
「ここの連中、防御のための武器は持っていないのか?!やられっぱなしじゃないか!!」

海岸線を叫びながら走る男たちの姿が、モニタを横切る。

拡大すれば、彼らが手に手に携えているのは、小さな投擲用の手榴弾、原始的なライフル様式の銃などだ。
「あんなんで、太刀打ちできると思ってんのかよ…!?」
「古代艦長…!!」



平和な街並が——
地球の中東を思わせる平安そのものだった光景が、
上空からのビームやミサイルを受けて次第に炎に飲まれていく。
波打ち際まで焼け出された市民のいくらかが、熱した海に走り込んでこちらをじっと仰いだ。
——子どもを抱いた、母親たちだった。
「…もう我慢できねえ…!!」
その光景に小林が感情を爆発させようとした時である。

「……総員、位置につけ!」
勢い余って振り向き様に転がりそうになった小林を除いて、全員がその声に顔を上げた……
「我々はこれより移民船団護衛の任を離れ、アマール首都上空の防御に当たる!」
「艦長…!!」
「やった…」
「そうこなくっちゃ…!」
艦長室から降りて来た指揮席からのその声に、全員が異口同音に…昂然と応える。

「メインエンジン始動!全有人護衛艦隊、バリアミサイルにて防空援護を開始せよ!」




*              *              *




ドオオオオォオオオオォン……
——轟音の種類が急に変わった。

「ね、アナライザー…あの音」
ヤマトが、敵の砲撃を受け始めたのかな?
だがアナライザーは、心配顔の守にあっさりと答えた。
「アア、大丈夫デス。アレハ、コノ船カラノ発射音デスヨ」

オオカタ、煙突カラ ばりあみさいる デモ撃ッテルンデショウ。
古代サンナラソウスルンジャナイカト、思ッテマシタ。

工作班の実験室から両手に一抱えもあるケースを持って出て来た守は、それを聞いて呆気にとられた。
「…ほんとに?!」

——お父さん!
やっぱり、お父さんだ。
…ヤマトの、古代進だ…!!

心でガッツポーズ。
思わず荷物を持つ両手に力を込める。

「防衛会議ノ命令ナンカ、待ッテル古代サンジャアリマセンヨ。……マッタク、昔カラ全然変ワッテマセンネ……」
アナライザーは冷めたものだ。
僕も第一艦橋に戻りたい!そうごねる守をグイグイ引っ張って工作室を出る。
ソンナノ駄目ニ決マッテルデショ、ソレヨリモ一刻モ早ク<ソレ>ヲドウニカシナクチャ…!!
「あっ、そうか…」

なんと今、守が抱えている鉛色のケースの中には。 
明るいアメジスト色に輝く生命体、例のクリオネたちが……入っていたのだ。



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