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「今、なんて……?」

<ヤマト>の艦長…古代さんは、私の問いにはすぐには答えてくれなかった。
「今、なんておっしゃったのですか…?古代さん」

まさか、あなたがここで生きていらしたとは。

古代さんは,それだけ言ってまた…言葉を失った。
……今を溯ること7年前…… 私は彗星帝国から地球を救い、自身は塵として…宇宙の闇を彷徨っていた。
ガルマン総統に救助され、この惑星で生かされたのは、本当に幸運なことだった。
そして今、再びヤマトのあなた方にお会いできたとは。これこそが本当の奇跡……
…目の前にある、懐かしいヤマトの皆さんの顔……

もちろん、島さんもご一緒なのでしょう……?

でも、古代さんだけでなく雪さんも、…そして副長だとおっしゃった真田さん、
そして他の皆さんまでもが同じように絶句して——。

「…島さんは…? いらしていないのですか?」
「島は…」

操縦席には,見たことのない男性が座っている。北野さんというのだと紹介された。
あれから…何年も経っている。島さんがこの船で仕事をしていないとしても、
それは不思議なことではないわ……では、地球に?別の任務に就いておられるのですね?

「いえ…島は」

古代さんは心を決めたようだった。
「彗星帝国をあなたのおかげで降した後、我々は幾度も…他の宇宙からの侵略者と戦い、
勝利してきました。しかしその都度,大きな犠牲が出たんです……」
……島は。
その最期の戦いで…残念ながら、命を落としました——


命尽きるまで、あの船の操縦桿を握り続け。
僕らを死地から救い出し。そして、逝ったのだ、と…

辛そうに言葉を絞り出す古代さんがとても痛々しくて。私は思わず、俯くその肩に触れ…
首を振った。「……わかりました」
奇跡はそう何度も起きてはくれない。
それを一番、よく知っているのは……私ですから。

「あの…テレサ」
古代さんが言いすがる。でも、もう…その詳細など聞きたいとは思わなかった。
「…島さんは、亡くなったのですね」
私はそれだけ言って古代さんに背を向けた……

私の姿は、古代さんにどう見えていただろう。
私は、悲しんでいないみたいに見えただろうか。
涙すら流さない私は……彼らにはどう…映っただろう。

でも、もう…そんなことも、どうでも良かった。

これは、罰なのだ。多くの命を犠牲にしてきた私の罪に対する、……罰。
かつてテレザートを滅亡させた罪をあがなうため、唯一人地底の宮殿に我が身を幽閉したと同じように……
再び、己を殺して生きよと。

…あの頃は、そう信じ、自分を戒めてきた。
……けれど……もう。



「わかりました」

たった一度でいい。
自分勝手に生きることを、赦して欲しい……
私は、そう思い。
誰にともなく、そう言った……

多くの命を殺めた、その償いのために生きるのは、もう……たくさん。
島さんがいないのなら、私ももう、ここにいる意味がない。
私がこの世界に生きる意味は、もはやない……
償い、あがない。そんなことはもう、……したくない。

私は私のために、この世界から消えてなくなりたい、……と思った。

「…ありがとう、古代さん、…雪さん」
私は、微笑みさえした。
それは、ある意味で……この上なく楽なことだろうと思われたから……。


人は死んでしまえば…無になる。
天界なんかない……死後の世界なんかあり得ない。
死ねばいっしょになれるなどと、そんな虫のいいことも考えてはいなかった。
ただ、もう…この世界にいる意味がない。…私は、そう思っただけ。

島さんがいない世界なら。
私は、無になりたい。

……そう思っただけ………






「ひっく」

泣きじゃくる自分の声で、目が覚めました。
「……ど…したの?」
うーん、と寝返りを打って、島さんが…心配そうな声を出しました……
「何?怖い夢でも見た…?」
「………島さん」
「大丈夫、…俺がいるから」

……ほら。

島さんは可笑しそうにそう言って、お布団の中でぎゅっと私を抱き寄せてくれました。半分、寝ぼけ眼で…。
起きるにはまだ早いよ……
耳元で泣かれたら、眠れなくなっちゃうだろ……。

「島さん…島さん!」
「こら…」
……抱きつくなよぉ、目、……覚めちゃうだろ……
それとも、朝イチで襲って欲しいわけ?
「……ばか…」

ばか。

……ばかばか。夢の中でだって、死んだりしたら…承知しませんから……!

平和な地球で、あなたと一緒の家で…
私は今、暮らしているのに。
…あんな変な夢を見るなんて。…私、どうかしているわ…。


「今朝はとっても嫌な夢を見ました。でも、それはただの夢でした」
…日記には、そう書いておこう。
私はそう思い、島さんの腕の中でもう一度、目を閉じました……

 

    

 

 

********* 『夢』 新妻日記 12月

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